帰るぞと伸ばした手に、は暫く無言で泣いて、乱暴に涙を拭い手を重ねた。
其れは確かに生きている人間の温度で、俺は殺さなくて良かったと密かに思った。















手を繋いで帰った。
死ぬのが怖いと呟いたら、隊長はそうかィと笑った。
今度はさっきより上手な笑顔だった。
私はもう泣かなかった。
隊長の手は熱かった。生きてた。















の頬の傷はもう乾いていた。
本気で殺そうと、そう思った。けれど出来なかった、その証拠だ。
出来なかったのは、に対する想いからではない。
殺せと望むこいつを、殺せない理由など無い。
それなのに何故。理由なんて一つだった。















隊長が私を殺さなかった理由はなんとなく分かった。 だけど言わなかった。 どんな理由であれ、私は生きていることに心底安堵して、感謝しているから。 そして全てを忘れた。 すっかり暗くなった夜道を歩きながら、何てことない話を隊長とした。 それはくだらなくて、まったく今の状況を忘れ去った話。 話の途中で少し涙が出たけど、気付かない振りをした。




沖田隊長は笑っていた。















屯所の前に来ると、門の前でうろうろと歩き回っている人影が居た。
暗闇だったがすぐに分かった。近藤さんだ。
近藤さんは俺とを見つけるとくしゃっと崩れた泣き顔のような笑顔で駆け寄ってきて、
俺とを一気に抱き締めた。





「良かった…!」




俺がを殺さなかったのは、近藤さんの泣き顔が過ぎったから。















大きな体温に抱き締められて、私は再び、生きてることに心底感謝した。







隊長が私を殺さなかったのは、近藤さんを泣かせてしまうことになるから。











((護るべき人、護りたい人、悲しませてはいけない人、世界をくれた人、――全ての理由))