休日ということでいつもより少し遅い8時に鳴ったアラームを止めて、私は最近めっきり冷たくなった朝の空気に身を縮める。 すぐ隣にある体温に身を寄せてみても、顔だけを向こう側に向けて仰向けで眠っている総悟はぴくりとも動かない。 目が覚めると総悟が隣に眠っているこの生活ももう当たり前の日常になった。 生活の一つ一つに幸せを感じていたのも、今では一つ一つが日常に溶け込んで自然なものとなっている。 総悟はアラームの音にも気付いていないようで、目覚める気配はまったく見られない。 きっと疲れているんだろうな、と思って私は総悟を起こさないように静かに体を起こす。 今日はやけに目覚めが良い。乱れた髪の毛を整えながら総悟の寝顔を見ると、ぱかっと口を開けて眠っていたので 私はその口をそっと閉じさせてやる。最近朝起きると喉が痛いと言っていたのはこのせいだろう。


ベッドから出てぐっと伸びをして、眼鏡をかけて寝室を出る。今日は日曜日。 土日休みの私と、不定期な休みで、それもなかなか取れない忙しい総悟とじゃ休日が重なることは滅多になく、 今日は随分と久しぶりに訪れた二人で過ごせる休日だ。こんな休日は結婚してからまだ二度目なんじゃないだろうか。 昨日はどこかへ行こうかなんて話をしていたけれど、さっきの総悟の寝顔を思い出したら 家でゆっくり過ごした方がいいかもしれないなあなんて考える。 普段働いてばかりで疲れているだろうし、家で何をするでもなくのんびり過ごすのもきっと悪くない。



私は顔を洗ったり歯を磨いたりコンタクトを入れたり。服も着替えて目が覚めたところで、朝食の準備を始める。 いつもならお弁当と並行して慌ただしく作るのも、今日はお弁当もないし時間に追われることもないので気分も穏やかだ。 土日の朝食は面倒なので普段ならパンだけど、総悟はパンがあまり好きじゃないし、 食った気がしねェとか文句を言うので今日は特別に和食を作ってあげることにした。 最初は料理なんか苦手で、うまくもまずくもねェやとかこっぴどく言われてたのも 今じゃきちんと栄養を考えた料理を美味しく作れるようになったから、結婚ってすごいなとか思う。 鼻歌交じりでいつもより凝った朝食を作り終えて、時計を見てみればもう9時半だ。 そろそろ起きるだろうかと寝室を覗くと、総悟はなぜだかベッドに座って窓の外をぼんやり眺めていた。





「総悟?おはよう」





入口から声をかけるけど、総悟はこくっと縦に頷くだけだ。 部屋に入って、総悟が自分で半分だけ開けたらしいカーテンを全部開けてやって、朝の明るい陽の光を部屋の中に取り込む。 まぶしい。と低くかすれた声がつぶやいた。総悟を見ると、寝ぼけ眼でまだぽやんとした表情をしている。





「朝だよ総悟」
「んー…」
「おきてる?」
「んー…」





私は起きているのか寝ぼけているのかわからない総悟の隣に座って、寝ぐせのついた髪を指で梳いて直してあげる。 絡まった寝ぐせを梳くと流れる子供の髪みたいな総悟の髪は、日の光に当たってきれいな茶色になっている。 「そうちゃん」と呼びかけてみるけど「んー」としか返事をしない。寝ぼけてるの?と問いかけると、首を2、3度横に振った。





「まだもっかい寝るの?」
「……ねない」
「じゃあ起きて、ごはん出来てるよ」
「………パンはすきじゃねェ」
「うんわかってる、今日はごはんだから」
「………………にちよう」
「うん、日曜日だけどごはんつくったから。ね?」





そう言うと総悟はまたこくっと縦に頷いて、くああと大あくびをした。 毎朝慌ただしく準備して出かけていくから見ることはなかったけれど、 総悟は本来ひどく朝に弱いためにこうしてゆっくり目覚めた朝は寝ぼけてなかなか起きないと言うことを思い出した。 にしても、こんな可愛い総悟は久しぶりに見た。普段じゃ絶対見ることの出来ない姿に、私は思わず頬が緩んで幸せな気持ちになる。 ベッドから下りて伸びをした総悟が洗面所に向かったのを見届けて、私はベッドを整えながら、布団でも干すか、と考える。 換気のために窓を開けると、空気は確かに冷たいけれどお日さまが出ているし、天気もいい。 久しぶりに、手を繋いで散歩しながらお買い物でも行けたらいいな。 そう思いながら寝室を後にして、私は総悟の為に朝から腕によりをかけて作った朝食を準備し始めた。











かわいい日曜日の過ごし方。
( お休みの日はゆっくりのんびりが一番。 )