「おい



沖田はいつもそうやってぶっきらぼうに私を呼ぶ。私はそれが気に入らない。
だから私はあからさまに不満を含んだ表情で沖田を見る。
それから無視してふいっと顔を横に背けた。
そしたら沖田の持ってたノートで頭を叩かれた。さいあく。




「英語のノート見せろ」
「えーやだ」
「いいから出せ」




沖田はぐにっと私の頬を引っ張る。いたい。 こいつの悪趣味な嫌がらせがエスカレートしないうちに、 私は大人しく英語のノートを出した。 すると沖田は私の前の席にこっち向きに座って、私の机の上にノートを二冊広げた。 私の筆箱を勝手に開けて、勝手にシャーペンを使う。 そして沖田の手に握られた私のシャーペンはすらすらと ついさっき私のノートの上に書いた文字と同じものを沖田のノートに書き写していった。 シャーペンは言葉をしらないから、私以外の人に(しかもこんなサド男に)つかわれても文句は言わない。 目の前で沖田の色素の薄い髪が揺れる。




「いい加減俺を好きだって言ったらどうなんでィ」
沖田すきじゃないもん」
「俺は好きだっつってんのにかィ?」
は土方くんがすきなの」
「ふーん」




沖田は興味なさそうな相槌を打ってノートを写す作業を続ける。
沖田は私を好きだと言う。だけど私はそれに興味がない。
私は土方くんを好きで、私を好きだという人には別に興味はないのだ。




「土方さんはマヨネーズ星人だぜィ」
「うん、しってるよ」
「そんな体に悪そうな男やめて俺にしろ」
「サディスティック星人のほうがいやだ」




そう言ったらチッて舌打ちされたから、なんだかむかついて頭突きした。すぐに倍返しされた。
好きな女の子におもいっきり頭突きするなんてどういうことだ、と頭をおさえながら心の中で悪態をつく。
気づいたら沖田はもうノートを写し終えていた。




「沖田ってほんとはのこと好きじゃないでしょ」
「好きだぜィ?」
ふあーあ、と力のないあくびをされながら好きだといわれたってうそみたい。
なんなの、こいつ。
「沖田と付き合ったらペットにされるのが目に見えてるもん」
「今だってペットじゃねェかィ」
「…やっぱり沖田はすきにならない」
「俺と付き合ったら気持ちいいこといっぱいしてやンのに?」




沖田はそういってにやりと笑った。
常に頭の中にある土方くんのさわやかな笑顔とはまったく違うサディストの笑顔だ。
私はふるふると首を横に振る。「気持ちいいことなんていらないもん」




「沖田が私をすきって言うのは、ライクだよ」
「違ェな」
「じゃあなに、ラブだって言うの?」
「いや」
「なんなの」
「ファック?」
「…さいあく」




たのしそうな顔で言った沖田を軽く睨んで、机の下で足を蹴ってやった。
そしたら脛を蹴られた。私は軽く蹴っただけなのに、沖田は思いっきり蹴った。
蹴られた脛を押さえて「おんなのこなのに」と今度はキッと睨んでやると、
そんな顔も好きだぜィとか言われた。意味わかんない。




マゾヒストじゃないよ」
「俺がこれからそうしてやるさァ」
「ならないし、付き合わないよ」
「あーあ、じゃァこれからも土方さんをいじめるしかねェなァ」
「え」
が俺と付き合えばすべて解決だぜィ?」
「オニ!」
「何とでも言えェ」

「いいもん、土方くんはが守るから」
「へェ、それァ楽しみでさァ」
「むかつく…」




頬杖をついてこっちを見る沖田はなんとも余裕で不適な笑みを浮かべている。 むかついて頬杖をついている沖田の腕を叩いて払う。 かくんとバランスを崩したのを笑ったら、両頬を強くつねられた。 いたい!ともがいても離してくれるはずもなく、よく伸びンなァとサディストの笑顔。 を好きだという沖田はをいじめてホントにたのしそうに笑む。 休み時間の終わりを告げる音が鳴って、沖田はやっと私の頬っぺたを解放してめんどくさそうに自分の席へ戻っていった。 私の机の上には二冊の英語のノート。沖田が忘れていったらしい。 ぺらりと開いて勝手に見てやると、紙くずが飛んできて頭に当たった。 ちょっと遠い席の沖田を見ると、勝手に見んな、と口が動いた。 ムカついた私は沖田のノートを見ながら「きったない字」と心の中で精一杯の悪態をついてやった。









君とクレイジー・ライフ
(ねえわらっちゃう!きみもわたしも一方通行!)