地面に膝を折って座り込み、耳を塞いで目を瞑る。
耳を塞いだ手にはすべての音を遮断するくらいに強く力を込めて。
目はもう見ることを拒絶するかのように強くぎゅっと瞑って。
幼い頃から使っていた、この世界から逃げ出したくなったときの精一杯の抵抗。
この世界から逃げ出すこと。それはどんな術を使っても不可能だということを知っている。
音を遮断してみても、自分の呼吸の音が聞こえる、鼓動の音が聞こえる。
真っ暗な世界を望んでみても、太陽の明るい光が透けて瞼の裏が真っ赤に見える。
だけど私は必死に耳を塞ぎ目を瞑る。逃避の方法はそれしか知らないから。
そして私はいつも祈る。耳を塞ぐ手を離したとき、目を開けたとき、
今まで在った現実が夢になっていますようにと。勿論それが叶ったことは、無い。
ゆっくりと手を離して静かに目を開けてみると、眩しいくらいに明るい世界が視界を埋めた。
風の音が聞こえる。鳥の声が聞こえる。明るく静かな世界。
あまりに平和な空気に立ち尽くして少し夢を見た。けれど夢はすぐに崩れさる。
ごほごほと荒い咳が空気を破いた。近藤さんの声が聞こえて、
私は総悟の背中を今にも泣きそうに脆い表情をした近藤さんがさすっている光景を容易に想像できた。
総悟の吐いた紅い血が鮮明な色をして脳裏を焼く。じわりじわりと世界が歪む。
ああやっぱり世界は変わらない。
反時計回りの世界