保健室のドアを開けたらちょうど保健の先生も出て行くところだったらしく、ドアのところでぶつかりそうになった。 ベッドを貸してくれと頼んだら、どうやら先生は出張へ行くとのことで、下校時刻にはちゃんと帰りなさいよと言われてあっさり入ることが出来た。 俺は先生と入れ違いになって保健室に入り、ドアを閉めて鍵まで掛ける。しんと静まった薬品の匂いのする小さな部屋は 忙しなく時間が流れている他の場所からまったく別の世界の様に、まるで目に見えるくらい時間がゆっくりと流れているのがわかって特別な空間に感じる。 病院に似ているけれど、病院よりずっと親しみやすくて柔らかい空間を見回して、カーテンで仕切られた白いベッドが三つ並んでいるのを見た。 俺はそのなかで一番右のベッドに近づき、シャッと一気にカーテンを引く。丸く盛り上がった真っ白の布団に眠っていたが、迷惑そうに眉を顰めた。





「気分はどーでィ」
「…いいわけないでしょ」





近くにあったパイプ椅子を引っ張って、の頭の方に置いて座る。 は横を向いて丸まって寝ていたようだったが、気だるそうに動いて天井を向き左腕を額に置いた。 すうっと息を吸い込んだ後、大きく胸が上下して重たい溜息が吐き出されて、彼女の体調の悪さを物語る。 毎月一回、腹が痛ェだの気持ちが悪ィだの体が重いだの、そんなんに悩まされて女は大変だな、 と他人事のように思いながらくるーっと一回転、椅子を回した。道理で女は強いわけだ。 何しに来たのと鬱陶しそうな声が投げかけられて、暇だったからと返してまた椅子を回す。 キィキィと鳴る古いパイプ椅子の音に交じって、なにそれ、と投げやりなの言葉が白い壁を冷たく跳ね返った。





「治らねーの?」
「沖田がチューしてくれたら治る」





俺はそれを聞いてすぐに、回っていた椅子を止めて立ち上がり、 の顔の横に手をついて一瞬で無防備に薄く開いていた唇に唇を重ねた。 離れてまた椅子に座ると、ぽかんとしていたは勢いよく起き上がった。





「普通ホントにする!?」
「お、ホントに治った」





ばしっと肩を叩かれ、また叩かれ、三回ほど叩かれ、信じらんない、と言ったは 赤い頬と耳を隠すように、立てた膝の間に顔を埋めて膝を抱えて小さくなった。 俺は叩かれた肩をさすりながら「お前がしろって言ったんだろィ」と呟く。





「しろとは言ってないもん…」
「そう言ったようなもんでィ」





するとは顔を上げてそっと、おそるおそると言った表情で俺を見た。





「……沖田ってあたしのこと好きなの?」
「バカじゃねーの」





またばしっと、今度は頭を叩かれて俺はいてっと声を上げる。 はまだ赤い顔をしたまま、俺と目が合わせられないかのように視線を きょろきょろさせながら怒ったような声で言う。「あたしと沖田、付き合ってないじゃん」





「付き合ってなきゃキスしちゃいけねーのかィ?」
「いけないに決まってるでしょ!何言ってんの?」
「なんでィ、キスくらい」
「キスくらいってなに、」
「外国ではキスなんて挨拶だぜィ、朝会った人間におはようを言うのとまったく同じ行為でさァ」
「ここは日本だし沖田だって日本人のくせに!」
「あーあーわかった、じゃあお前、飼ってる猫にキスするだろ、あれァおまえ猫と付き合ってんの?」
「……付き合ってるわけないじゃん」
「じゃあお前、将来子供が生まれたらその子供にキスとかするんだろィ、おれァおま「もーうるさーーーいっ!!!!」





あほ!!!と言っては布団を頭まで被って丸くなって寝てしまった。
俺は少し考えて、が被っている布団を引っ張って剥がす。
驚いて大きく目を開いているの顔の横に両手をついたら、赤い顔をしたの唇が小さく震えた。






「さっさと俺のことが好きだって言いやがれ」
「……ばっかじゃない」












サディスティックベイビー
(縮んでは開く心地良い距離感)