「あいしてるって言って」 そう言ったらコンビニの前でポケットに手を突っ込んで、 しゃがみ込んで待っていた総悟は一瞬目を大きく開いてから「はあ?」って顔をした。 それからいつもみたいに馬鹿にしたように笑ってあたしの右手にある肉まんを取ろうとしたから、 あたしはその総悟の手をひらりとよけた。あたしの両手には肉まんがほかほかとあったかそうな湯気を立てて夜に浮いている。 数分前じゃんけんで負けて買いに行かされた肉まんだ。お金は総悟がくれた。 ちゃんと私の分も買えるくらいで、そういうところやさしいなと思った。 総悟の愛はちゃんとところどころに感じるんだけど急にことばが欲しくなって、ねだってみたけどやっぱり簡単に言ってくれない。 やっぱりなあ、って白い息を吐いてしゃがみ込んだら、総悟が私の右手をぐいっと引き寄せてその手の中にあった肉まんにかぶりついた。 「あー!」 「馬鹿なこと言ってるからでィ」 「馬鹿なことじゃないもん…」 私の手を引き寄せて肉まんを食べる総悟に、 あたしはそのお願いを一時諦めて自分も左手に持っていた肉まんを食べた。 この総悟が簡単にそんな甘い言葉を言ってくれるわけはないということはわかっていたけど、 思い返してみれば好きだとか愛してるだとか確実な言葉で言われたことはあっただろうか。 いや、ない気がする。あたしは総悟に優しくされたりなにかとされるたびに言っているけれど、 総悟の方からそういう言葉を聞いたことはない。たぶん。ちゅーもエッチもしたのに。 そんなことをするより言葉をもらう方がずっと難しいのかな。 とか考えてるうちにあたしの右手にあった肉まんはとっくになくなっていて、 左手の方までもぐもぐと総悟に食べられ始めててもう二口くらいしか残っていなかった。 「え!なんで!」 「やべー腹減った」 「はらへったって、あたしの分まで食べてるじゃん!」 「ぼーっとしてっから」 「一口しか食べてないのに…」 ばか!と言ったら左手を掴まれて取られた肉まんを口に押し込まれた。 「ほーら、美味いか」 「…美味いけど」 総悟は意地悪に笑って、帰るぞ、と近くに止めてあった自転車に跨った。 あたしは愛の言葉も言ってもらえないし、肉まんは食べられちゃうしで 不機嫌な顔で総悟を見ていたら、総悟は自転車の荷台を叩いて 「愛してるって言ってほしかったら三秒以内に乗れ」と命令してきたから あたしは急いで立ち上がって総悟の自転車の荷台に跨る。 背中にぺたっと抱きついたらそんなに言ってほしいか、と総悟の笑うような声が背中に低く響いて、 よいしょーと自転車がゆっくり進んでいく。 「ラブホ行こーぜ」 「やだーなんでよ」 「なんか俺いまそーゆう気分」 「さっきまで腹減ったって言ってたじゃん!」 「いや、お前がない胸を押しつけるもんで」 「(ボカボカボカ)」 「いててて。あれ、ここ右だったか?」 「ちょっ、本気で行くの?」 「行くに決まってんだろィ」 「やだよあたしお腹すいたもん」 「死ぬほど愛してるって言ってやらァ」 「…………きれいなところね!」
Love me!
( あきれるくらい、うんざりするくらいあいしてね! )
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