( 2007-08-12 15:07:54 )


耳を疑った。




「特攻隊…?」




十四郎は静かに頷く。
私と目を合わせようとはしなかった。



「…何言ってるの?」
「特攻隊に入隊する。もう決めた事だ」



スパッと決意を言い放った十四郎の声には
確かに少しの迷いも感じられなくて、腹立たしいくらい芯が通っていた。
けれど目は私を避けたままだ。
逆に私はじっと十四郎を睨むように見つめる。



「冗談でしょ、」
「本気だ」
「やめてよ!!」



がしっと十四郎の両腕を掴む。
彼は動じない。



「馬鹿じゃないの!?何言ってるのよ!」



がくがくと揺すっても一向に私と目を合わせようとしない十四郎が
何故だかとても別人のように感じて苛立った。
どれだけ叫んで決意を捻じ曲げてやろうとしても、
それに見向きも知らない十四郎に沸々と濁った感情が生じる。


パンッと弾けるような音がした。
私は自分が思ったより強い力で十四郎の頬を打ってしまった。
十四郎がやっと私を見た。
息が苦しい。




「わかってるの、特攻隊だよ、」
「…ああ」
「死ぬんだよ!?」




唇が震える。
視界が涙の膜で揺れる。




「馬鹿じゃないの…!」


十四郎の頬を打った手がビリビリと痺れるように痛かった。



(彼は私の涙すら拭わずに去った。)




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( 2007-08-14 18:47:06 ) 夏色(ブン太)




「駐車場のねーこはーあくびをーしなーがらー」
「今日もいーちーにちーをすーごーしてーゆくー」




カラララと車輪の回る音、あたしとブンちゃん、交互に浮かれた歌い声。
暑い空気を分けて、風を作って走る。
ブンちゃんの愛車(チャリンコ!)に二人乗り、やけに大きく感じる背中。
制服の裾が、スカートがパタパタ揺れる。
だけどそんなのお構いなし。




「あー!もうすぐ坂道ー!」
「このながいーなーがいーくだりーざーかをー」
「きゃー!はははは!!!」
「落ちんなよおまえー!」
「だいじょぶー!」
「君をじーてーんしゃーのーうしーろにーのーせてー」
「ブーレーーキーいっぱいーにーぎーりーしーめてー!」




ゆっくりーゆっくりー下ってくー




「あはははは!!こわい!おちるー!」
「バーカバーカ!」
「あはははは!」




(バカップル!)




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( 2007-08-26 20:45:18 ) 微裏注意(総悟)




抑えきれない声をはしたなく溢しながら、だんだんと迫ってくる絶頂を感じるとき。
私は快楽に溺れる中でぎゅうっと瞑った目をそっと開ける。
すると普段じゃ絶対に見ることの出来ない、熱い呼吸漏らす切羽詰まったような表情の総悟が見える。

さっきまでの私と同じように眉間に皺を刻み、
ぎゅうっと目を瞑ったその表情は、とんでもなく色っぽくて唾を飲むくらいだ。
もしかしたら総悟のその表情だけで達してしまえるかもしれない。


「あ、っ!」


ぼんやりと考えている余裕は奪われ、私はまた固く目を瞑った。
達する直前の、総悟が私の名前を呼ぶ切な気な声も好き。




「私ねー、総悟の感じてる顔すき」
「……」
「うへ、見ちゃった」
「…見んな痴女」
「ぐ!鼻をつまむな!」
「次から目隠ししてやらァ」




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( 2007-09-04 23:35:39 ) こわいものを見た夜(銀時)




「ねーねー銀、起きて(べしっべしっ)」
「んあー…?」
「こわくて眠れないよ(ごそごそ)」
「……え、なにおまえいつ来たの」
「さっき。て言うかおとなしく寝ててくれてよかったよ、飲みに行ってたらどうしようかと思った」
「…ちょっと待て状況が理解できないんだけど」
「ん?だからね、怖いCM見ちゃってさー眠れなくなったの(ぴとっ)」
「ああ…そう…(ぼんやり)」
「まって銀まだ寝ちゃダメ(ぎゅうっ)」
「いでででで!!!どこ掴んでンのォォォォ!!」
「銀が先に寝ちゃったらこわいよ!来た意味ないじゃん」
「(つぶされるかと思った)……じゃあアレだ、ヤるか」
「それはイヤ、疲れるもん」
「じゃァどーすんだよっつーかどーしてくれんだよ、久々に会ったから銀サンなんかちょっと元気になっちゃったよ」
「ごめんね、今度ね。おやすみ」
「…なにこの子いつからこんな自己中心的な子になったの」




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( 2007-09-17 19:35:56 ) 戦争(銀時)




戦争がおわりました

かえってきた銀ちゃんは傷だらけでした


髪も
服も
肌も

きもちのわるい色で染まっていました



だけど


生きてました




「おかえ、り」
「おう、」
「おかえり、おかえり、」
「…おう」
「生きてた、銀ちゃん、いきて、た」
「おう、」




銀ちゃんはばたりと地面に倒れ込みました
わたしはあわててしゃがみこんでだいじょうぶ、と問いかけました

銀ちゃんはわたしの手を握りました
わたしはなみだをこぼしました

銀ちゃんの手は
あったかかったのです




「ごめんな、」



わたしはだまって首を横にふりました
なみだは止まってくれません

銀ちゃんは笑いました



「ずっと、呼んでたんだ、」
「……」
「お前のこと、ずっと」
「…うん、きこえた、よ、」



涙声でわたしは言います

ずっとずっときこえてたよ
銀ちゃんは笑います



「そりゃよかった」




戦争がおわりました


得たものは、




なにもありませんでした。



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(昔綴った妄想話。)