「土方さん、私の思想は温いですか」




俺の部屋の隅で膝を抱えて座り、外を眺めながら風の流れるままに髪を遊ばせるが呟いた。
こいつは何かあるとこうして俺の部屋の隅で膝を抱えて小さくなって座り、ぽつりぽつりと俺に心の内を零していく。
俺はそれを書類に向かいながら聞く。
音もなくさらりと流れていく風が心地いい。




「平和は血が屍が創るんだって、そんなこと」
「……総悟になんか言われたか?」




そう問うとはしばらく黙り、はあ、と小さくため息をついた。
風の流したのため息が俺の髪を撫でる。
俺は彼女がまた何か喋りだすまでなにも言わず、文字の羅列に目を通す。
心の奥から零れる言葉だけで交わされる会話はなんともゆっくりとしたテンポで行われるのだ。




「無償の平和は無い、平和や幸福は常に犠牲が与えてくれるものだそうです」




気の抜けたような声では言った。
総悟の言いそうなことだと思った。
と総悟の思想はたぶん一生噛み合うことはないだろう。




「だれも、みんな、戦いなんかやめればいいと思ってちゃ、いけませんか、ね」



「みんな、おなじなのに」




の思想はいつも平等で対等な平和を望む。 善も悪さえも包み込んで受け入れようと、寛大な平和を望む。 だから邪魔するものや立ち向かってくるものは斬ってしまう俺達との思想が噛む日は来ないのだ。 だったら彼女がこんな物騒な場所で働いているなんて馬鹿馬鹿しい話だ。 なんで此処で、真選組なんかで働こうと思ったのか。 真選組への恨みか何かを抱えていて、何かを企んでいるのかとでも思っていたけど、 問うてみれば答えは案外あっさりと返ってきた。

(違う思想が溢れている場所はおもしろいから)




「お前はそう思っとけばいんだよ」
「……」
「皆がみんな総悟みたいな奴だったら世の中終わりだぞ」
「わかってます、よ…」




私は温い持論を捨てずに生きていきます、と力の無い声で言って、 はまた小さくため息をついた。
俺は紙の音とペンを走らせる音を生みながら、ぼんやりと地面を突く雀を眺めているに目をやった。
人一倍に平和を望む彼女はとても小さく、一人の女だった。
俺がまた書類に視線を落としたとき、はまた心の声をぽつりと零した。




「戦争なんて、くだらないのに」





you and me and ...
(それは彼女の切実な望み)