神楽ちゃんは定春の散歩に、新八くんはお通ちゃんの何か(よくわからない)に行ってしまった。 万事屋にはわたしと銀さん。二人きり。 銀さんはソファに座ってジャンプを読んでいる。 わたしは洗濯機を回して、部屋の中をうろちょろして、暇を持て余している。 いつも銀さんが座っているデスク(って言うほどでもないか)のくるくる回る椅子に座ってくーるくーると回ってみる。 右回り。回転がおさまったら今度は左回り。回転がおさまったら、もうやめた。 見てないテレビはつまらないニュースを流していた。ジャンプを読んでる銀さんがふと笑った。





「なんかおもしろいのあった?」
「んー?べつにー」





なによ、それ。ふーんだ、と思ってまた右にくるりと椅子を回した。 テレビはえいりあんのニュースが終わったようだ。さて、次のニュースです。 ちょうどテレビをみる方向で椅子の回転が止まる。わあ桜だ。きれい。 わたしは椅子を降りて、銀さんがいるソファに寄っていく。銀さんはいつの間にか仰向けに寝転んでいた。 わたしはソファに銀さんの足を折り曲げさせて無理矢理座って、そのまま体を横に倒した。 ちょうど銀さんの下腹あたりに耳をくっつけた形で頭が乗っかる。 上半身が折り曲げた銀さんの足とソファの背に挟まれてて、ちょっとじゃま。だけどしあわせ。 テレビは各地で桜が咲きはじめている事を知らせてて、 花野アナがどっかの公園の桜の木の前でマイクを持って喋ってた。 わたしはとんとんと銀さんのじゃまな足を叩いて、ねえねえと呼びかける。





「見てーもうすぐ桜が咲くよ」
「ちょ、なんかお前せまい」
「銀さんの足がじゃまなんだよ」
「あっちのソファ座れば広いだろ」
「いーやー。これがいいんだもん」





そう言うと銀さんはしょーがねえなあと言ってまた意識をジャンプに戻した。
せっかくわたしの方に気が向いてくれたのに、ジャンプにとられちゃつまらない。
わたしはもう一度ねえねえと呼びかける。





「桜見たいよー銀さん」
「行ってらっしゃい」
「いっしょに行くの!」
「銀さん花粉症だから。ごめんねー」
「うそつきー!」





ばしっと足を叩いても銀さんは「はいはい」となだめるように 言うだけで(ムカつく!)、完全にジャンプに夢中だ。もう放っておこう。 テレビはもう桜のニュースから見たことないでっかい動物のニュースに変わっていた。 ゾウみたいなライオンみたいな。なんだあれ。そしてそんな動物ばかりが集まった動物園が出来たとか。 そのニュースが終わると今度は真選組のニュースになった。 バズーカを持ってブイサインをカメラに向けている総悟くんがアップで映って、 土方さんがこいつは映すなとカメラを乱暴に押してどけた。 土方さんに押されて違う方向を向いたカメラが映す派手にキラキラしたキャバクラが、 壁に穴を開けて崩壊している。総悟くんがバズーカを打ち込んだらしい。





「総悟くん意外とちゃんとお仕事してるよね」





ニュースを見ながらほぼ独り言のように呟く。
銀さんはやっぱり「んー」とつまんない相槌を返してきた。
いいもん、べつに。いつまでジャンプ読み続けるんだろうと思っていると、
銀さんがふと読んでいたジャンプをばさっと床に置いて少し体を起こした。





お前総悟くんって呼んでたっけ?」
「へ?うん」

わたしは少しだけ体を起こしている銀さんを、
銀さんのおなかの上に頭を乗っけたまま上を向いて見る。

「沖田くんって呼んでなかった?」
「あー、呼んでたよ。でも結構いろんなとこで会って、仲良くなったの」





銀さんは少しだまって、ふーんと言いながらまたぽすんと寝転んだ。 どうして?と訊いたけれどべつにーとしか言わない。 わたしはなんだろうと思いながらまた視線をテレビに向けると、 銀さんが急にむくりと起き上がって、 おなかに頭を乗せていたわたしもびっくりして起き上がった。「わあ、なに」 びっくりした顔で銀さんを見ていると、銀さんはソファの上にあぐらを掻いて なでなでとわたしの頭を撫でてきた。わたしは思わず笑う。「なに?」





「真選組とはあんま仲良くすんじゃねーぞ」





頭を撫でるのをやめた手でぐいっと頬をつままれる。 あ。わかった。やきもちだ。銀さんがわたしにやきもちを焼いている。 わたしは無性にうれしくなって、ふふふふと笑う。 なーに、と言う銀さんに、わたしはまだ笑い続けてる。 すると一瞬、ちゅっと唇が重なってキスされた。 わたしはすべてのことがうれしくてしあわせで、なんだかこぼれた笑いが止まらなかった。





「お花見つれてってくれる?」
「そんなもんいくらでも行ってやるよコノヤロー」





すっかり終わったニュースは天気予報になっていて、
銀さんの好きなお天気お姉さんが今週はずっと晴れて春の陽気が続くと言っている。












(平和な春の休日の午後。)