暑い。昨日雨だったからか、それともまた雨が降るのか。 雨の匂いを含んだ湿気の多い空気が纏わりついて気分が悪かった。 だけど目を開ける気にはならないし、そんな不快感よりも疲労と睡魔が勝る。 目を閉じたまま眉を顰めて額に滲んだ汗を手の甲で拭う。 とにかく寝てしまおう。眠りにつけば暑さなんか忘れられる。 そう思って眠ることだけに集中するよう思考を切り替えたとき、がばっと熱い体温が背中から覆ってきた。 横を向いて寝る私の背中にぴっとりとくっついてきたそれを、最初のうちはめんどくさいので無視を決め込んだ。 するとそれは私の髪に顔を突っ込んで犬のように髪の匂いを嗅いでくる。 暑い。熱い。うざい。





「………いつ来たの」




とにかく暑さが限界に達したので私は仕方なく目を開けて背中のものに問いかけた。
のん気な声で「ついさっきー」と答えるそいつを私はぐいっと引き離した。




「そう。じゃあおやすみ」
「ちょっ待った待った。大好きな彼氏の前で寝る気かコノヤロー」
「もー、くっついてこないでよ」
「やだ。仲良くしよーぜちゃん」
「暑苦しい…」




なかなか引き離れない銀時を離すのもなんだか面倒になってきて、 またくるりと銀時に背を向けて眠ろうとした。 こいつの存在は無視しよう。なかったことにしよう、いないことにしよう。 ーとか呼んでる気もするけど聞こえない振りをしよう。 眠りについてしまえばいい。とにかく疲労で重い体を少しでも回復させたい。 そう思って目を瞑り、眠る体勢を整えた。

それなのに。
髪の匂いを嗅いでくるだけでもうっとうしいと言うのに、今度はがぶっと頭に噛み付いてきた。
銀時は匂いを嗅いだり噛み付いたりするのが好きだという変態的趣味がある。
手は二の腕を触ってくるし、足は何かセクハラ的に絡まってくる。
コイツには疲れた彼女を労わる気持ちが無いのだろうか。




「…銀時」
「ん?」
「冷蔵庫にプリンとかケーキとかアイスとかがあるから」




どれでもすきなの食べていいよ、と言うと銀時はマジでか、と嬉しそうな声で言って キッチンの方へ子供みたいに忙しく向かって行った。 やっと離れてくれた、と密着していた体温から開放されて軽くなった気分で、 やっと眠れると思い静かに目を閉じる。 開け放たれた窓からはいつの間にか少し涼しくなったのか、ふわりと風が入ってきて心地良い。 疲労が限界だったのか、銀時がパカッと冷蔵庫のドアを開ける音を 遠くの方で聞きながら緩やかに眠りに落ちていくのを感じた。夢と現実の間を揺れるような、幸せな感覚。














スプーンどこー?」


今日の銀時は私の眠りを妨げるために存在しているのだと思った。





梅雨 睡眠 ダーリン
「……手で食べたらいいんじゃない」