01*


お妙と買い物へ行ったと言って新しい着物を着て新しい簪を飾って、は俺の前でくるりと回った。
ねえどうどう?と嬉しそうに感想を求めてくる彼女に、最初はわざと少しだけ興味のない振りをしてやる。
そうするとはねえ、とソファに座る俺の横にぽんっと軽く飛び跳ねて座り、俺の感想に興味津々な表情で近づいてくる。
俺はそんなの淡く春の色をした唇にキスを落とし、「かわいーかわいー」と適当にも聞こえる感想を言うのだ。
それでもは嬉しそうで。
「銀時に真っ先に見せたかったの」と照れたように笑った。




02*


「まだ怒ってんの?」
「怒ってないよ」

そう言いながらも少しだけ不満そうな口元、少しだけ顰められた眉。
の視線はテレビに向かっているけどきっと内容なんか聞こえちゃいないし頭になんか入ってないだろう。
俺は隣でそんな横顔を眺め、人差し指で不満そうに少しだけ膨らんだ頬をつつく。
拗ねた横顔がこっちを向いて、俺は拗ねた顔も悪くないなと呑気に思った。




03*


軽く事故っただけなのに、は神楽か新八かの知らせを聞いて息を切らせて病院まですっ飛んできた。 頭と左腕に包帯を巻いて頬と肘にガーゼを貼った俺を見て、は走ってきたせいで乱れた呼吸を整えながら立ち竦んでいた。 俺はを安心させるためにたいしたことねーよ、と笑ってやる。 は椅子に座った俺の前に立ち、頭は、と掠れた声で言う。 額からちょっと血が出ただけだということを説明すると、今度は腕は、と言われて腕も別に折れたわけじゃないことを説明する。

だから大丈夫だ、と改めて言うとは長いため息をついた。 「馬鹿、」 小さな声で呟かれたかと思うと、ぼたぼたっと大粒の涙が床に落ちた。その一つが俺の手の甲の上で弾ける。 怖かった、と消え入りそうに聞こえる泣き声のような弱音。 俺は包帯の巻かれていない右腕で、ぐしゃぐしゃに涙で濡れた顔を覆うの手を掴む。 時折零れる弱々しい嗚咽、俺の為に流された涙、その涙で濡れた小さな手。 まるで子供のように泣き続けるの手をしっかりと握りながら、ごめんな、とどこか情けない声で謝った。 の小さな手がきゅっと俺の手を握り返した。




04*


「銀時ー」


夢と現実の間、朝の空気。
ゆらゆら揺らされるけどまだ残る睡魔に負けてがばっと布団を被る。
遠くで聞こえる俺を呼ぶの声。
夢を見ているような、ふわふわした世界で俺はもう一度眠りに誘われる。
呼んでる、でもまだ、もう少し、


「起きて銀時」


優しく布団をはがされて急に冷たい空気に触れて体を小さく丸める。 寒ィと思わず小さく呟くと、ががばっと俺の上に覆いかぶさった。 「おーきろー」くしゃくしゃと髪を混ぜられて、俺はやっと目を開ける。 覆いかぶさったあったかいの体温、髪を混ぜる指の感覚、ふわりとかすめる髪の匂い。 「あ。起きた」 やっと目を開けた俺におはようと言ったの笑顔が思ったより近くにあったから、 俺はおはようと返す代わりにがぶっと鼻を噛んでやった。 なんでー!と俺の上からどいたは鼻を押さえて後ろに倒れこみ、「噛まれた!」と楽しそうに笑う。 俺は起き上がって欠伸をして頭を掻きながら、寝転んで笑うに目を向ける。 片方だけできる笑窪、笑ったときにハの字になる眉。可愛いと思ったってそれを口にはしないけど。 は起き上がって俺の髪をぐしゃりと撫でる。

「早く顔洗っておいで」

いつものような笑顔を向けて言うに、
俺は可愛いだとか好きだとか甘い台詞は潜めて大あくびを返した。







I hope you just smile for me.
(ただ君が笑ってくれれば、それでいいんだ)