ガシャン。
せんせいに乱暴に突き飛ばされたわたしはフェンスに思いっきりぶつかって、
だけどそのフェンスにも跳ね返されてべたっと倒れた。
コンクリートは冷たかった。
ついさっきまで雨が降ってたからあちこちに水が溜まってて、制服が濡れた。
わたしはすぐに起き上がってほっぺたに跳ねた雫を手の甲で拭い、せんせいをまっすぐ見た。
せんせいは煙草を銜えて火をつけると、そのままわたしに向かってきた。
すぐ後ろにあったフェンスまで追い詰められて、せんせいがわたしの顔のすぐ横に乱暴に右手をつく。
カシャン、とフェンスが鳴いた。
せんせいがフェンスを握るから、すぐ耳元でギシって音が聞こえた。
わたしは絶対にせんせいから目をそらさない。
するとせんせいの銜えている煙草がわたしの顔に近づいてきた。
顔のすぐ近くで紫煙が揺れる。
せんせいは左手でわたしの右手を掴んで、口元へ持っていった。
せんせいはわたしの右手の甲をじっとみつめる。
王子様はお姫様の手の甲にそっとキスをする、あの図のような状況。
だけどちがうのは、せんせいが私の手の甲に落としたのは甘いキスではなく、熱い煙草の灰だ。
わたしは灰を落とされた瞬間、反射的に手を引っ込めた。
だけどそれより強い力で、せんせいはわたしが手を引っ込めることを許さなかった。
熱さに耐えられなくてせんせいに手を掴まれながらももがくように動かすと、
灰が水溜りの中に落ちてくれて、わたしはとりあえず皮膚を焦がさないで済んだ。
と、思ったのに。
「っ、…!!!」
わたしが息をついた瞬間、せんせいが煙草の先の火をそのままわたしの手の甲に押し付けた。
声も出なかった。熱いという感覚はなくて、とにかく痛いという感覚が暴れまわって
わたしは必死に逃げようとせんせいの手を振り払った。
しらなかった。人間って本当にあぶないときは今までじゃ考えられないくらい強い力が出るんだ。
せんせいの強い力をさらに強い力で振り払ったわたしは反動で地面に倒れこみ、
すぐに水溜りに手の甲を押し付けて冷やす。手に穴を開けられるかと思った。
「あーあ、熱かった?」
せんせいがすこしも感情を持っていない目で地面にへたり込んだわたしを見下ろす。
わたしはただせんせいをじっと見て、目線をそらさないで、すぐに立ち上がる。
濡れたスカートから雫が落ちた。
わたしが立ったまま動かないでいると、せんせいの手が伸びてきてわたしの髪をぐっと掴んで引き寄せた。
またフェンスに押し付けられて、髪を掴まれる。
せんせいはすごく冷たい目をしていた。でもこわくなんかなかった。
煙草の火を押し付けられたってなんだって、せんせいをこわいと思ったことなんか一度もない。
だってせんせい、わたしだけにこんなつめたい表情をみせてくれるの。
「せんせい、はしぬのこわくないよ」
だからころしたっていいんだよ、って込めた思いを、せんせいは読み取ってくれたよねきっと。
だってほらやっとわらってくれた。
「どんなのがいい?」って。
永遠創造者
(おわりかたを決めさせてくれるなんて、せんせいはやっぱりやさしい)