「とりあえず卵はぜったいにね。あと買うものはメモしておいたから」





買い物なんかいつも新八に行かせてるからか、 自分一人でこんなに食料を買うことなんかひどく久しぶりのように思えた。 そんな柄でもないことをしているのは、彼女が久々に家に来て(しかもアイツらはいない)晩飯を作ってくれると言ったからだ。 それなら普通二人で買い物ってとこから始めンじゃねえのかと言ってみても、 彼女は準備を進め始めたところだったためにもう遅い。そうして俺がこうして買い物に来たというわけで。

俺は今二つの後悔をしている。
ひとつはやっぱり一人で買い物に出るくらいならを食っときゃよかったということ。
もうひとつは原チャリで来ればよかったということ。





「近いんだから歩いて行くのよ銀時」





そのあとに「運動不足なんだから」と付け足されたの言葉を思い出す。 いやいや運動不足もなにもこの歳になって運動なんかしませんよさん。 だけどなにも言わずに言うことを聞いて歩いて来た俺はエライ。


でもまさか雨が降るとは。





「やべーな…」





独り言のように(って言うか実際独り言なんだけど)呟き、容赦なく振り続ける雨を見てため息をつく。 このまま走って帰れば、と思ってみても荷物が邪魔だし、いい歳して雨の中を走るのもどうかと思うし。 このまま雨なんか気にしないで帰れば、と思ってみてもガキじゃあるまいし、 いい歳して濡れながら平気な顔して歩くのもどうかと思うし。


つーかそれってつまり歳か?歳が問題なのか? いやでもまだまだ若いって俺いろいろとまだまだイケるって俺。 だんだんずれてくる思考をめぐらせていると、ちょうど目の前を手をつないで 雨の中を駆けていくカップルが通り過ぎていった。 若くて初々しい空気を漂わせた二人を見て、ふとを思い出す。 付き合い始めのころは手ェつなぐのもドキドキしたっけなァ。 すこし恥じらいながら名前を呼んでくれたときはかわいすぎて死ぬかと思ったぜ銀さんは。 今じゃ運動不足なんだからとか言われてっけど。卵買ってきてとか言われてっけど。 アレ、やばくないこれ。年取ってねェか俺。やベーぞ





ちゃーん…」
「なに人の名前呟いてんのよ恥ずかしい」





ずるずるとどうでもいいことばかりを考えていたせいでうつむいていた顔を上げると、 傘を持ったが怪訝そうな顔で首を傾いでいた。 顔が近くにあったことに驚いて思わず手に持っていた袋のうちの一つを落としてしまい、 足元でどさっと言う音に混じっていやな音が聞こえる。





「あーっ!なにしてんの銀時!卵割れたよぜったい!」
「なんでいんだよ」
「なんでって、雨降ってきたから迎えに来てあげたんでしょ。それより袋拾って!」





ばしっと俺の頭を叩くも、へいへいと袋を拾う俺も、もう初々しさの欠片もなかった。 多分割れたであろう卵が入っている袋を持って、の差す傘の中に入る。 いっこ持つよと言ったに平気だと断ったけど、いいからいっこかしてと言われて両手の袋のうち軽いほうを差し出す。 空いた左手での差していた傘を取って俺が差し、傘は少しだけのほうへ傾ける。 そう、彼女が少しでも濡れないように。 そのすべてを当然のように自然の流れでやった自分に、が隣にいることが染み付いているんだと実感した。 はそんなことも知らず、雨だと天パがひどくなるねえなどと笑って俺の髪を撫でた。











そしてまた夢は優しく繰り返されて
(日常に当然のように彼女がいるというこの上なく幸福な、)