鮮やかな朱色を着た太陽が真っ白な雲の後ろに隠れるたび、雲の隙間から隠れきれない光が零れる。 厚い雲が覆えば雲の端がピンク色に染まって、空はとても暖かい色が絶妙なバランスで乗った絵画になる。 さっき封を開けたソーダ味のアイスは渇いた口の中に爽やかに溶けて私を満足させた。 あちらこちらで蝉が鳴いている。短い命を夏を人間に感じさせる為だけに謳歌している。 銀ちゃんはスーパーで買った、新八くんのメモにあった日用品の詰まった袋を揺らして私の横を歩幅を合わせて歩いている。 街のざわめきは遠くなった。公園を通り過ぎて、閑静な住宅街を通り抜けて、立ち並ぶビルの陰で冷えたコンクリートの道を歩く。 銀ちゃんが、なあと口を開く。私はアイスをさくさく食べながら、なあにと聞き返す。






「お前いつまで俺のこと好きなの」





相変わらずあんまり感情がこもってないような言い方で、銀ちゃんは少し背の低い私を斜め下に見て言った。 私はそんな銀ちゃんを斜め上に見て、雲が賑やかな夏の空を背景に銀ちゃんの読めない瞳を覗く。 じりじりと焦げる私の心の深くを、喉を通った冷たいソーダ味が冷まして私は涼しい表情を銀ちゃんに向けて微笑んだ。 いつまでも。当然のように返した答えに、銀ちゃんの瞳の奥は揺らぐ。揺れる感情の正体を、私はわからない。 歩いてる道には影がなくなって、夕日とは言え沈むまではまだ暑く世界を照らす。 私がそれから逃げるように建物に寄って影に身を捩じ込むと、銀ちゃんもそれについてきて日差しから逃げるように影に体を隠した。





「俺ァ何も持ってねえよ」
「うん、しってるよ」
「俺はお前が思ってる俺の数倍はくだらねェ」
「大丈夫。わたし銀ちゃんを美化してるわけじゃないもん」
「ああ、そう?」





銀ちゃんは軽く笑って、「だったら尚更わかんねェな」と困ったように言う。 ああそれすらも好きでたまらないのだと、この感情はどうしたら伝えられるだろう。 困ったような笑い方で、困ったように頭を掻くのも、そうやって自分の魅力にまったく気付いちゃいないところも。 「わかんなくていいの」私はだいぶ減ったアイスを齧る。 銀ちゃんは手が疲れたのか、左手に持っていた買い物袋を右手に持ち替えて、戸惑うような声で「そっか」と呟いた。 目の奥が鼻の奥がツンとなる。不意に訪れる泣きたい衝動を押し込めて、口の中で溶けたアイスを飲みこんだ。 今日の銀ちゃんは妙に聞きたがりだ。少し間を置いてまた口を開く。 まるで言いたいことを遠く遠く回り込んで、私に伝えてくるみたいに、答えは知っているはずの質問を投げてくる。





「何年かかるかわかんねーのに?」
「何年でも待ってる」
「それじゃお前、ババアになってっかもしんねーぞ」
「死んでるかもね」
「そんなんおめー……、そんな寂しい人生があるかよ」





(そう思うなら、)


ぽたりと溶けたアイスが地面にしずくを落とす。そこだけコンクリートが黒くなった。(寂しい人生というのなら、) それをきっかけにするように、棒からずり落ちた爽やかな水色のアイスはべしゃりとコンクリートに崩れてしまった。 「あ。」と私の声と銀ちゃんの声が重なって、同時に足を止める。(銀ちゃんが、わたしを、) 名前も知らない蝉は一瞬鳴きやんだ。かと思えば再び耳障りなほどの声で鳴き始める。 うるさい鳴き声が響く間を縫って、あーあ、と残念そうな声が言う。





「ばっかじゃねーの」





はいはずれ、と私の手に残った棒を取って、銀ちゃんはからかうように笑った。 銀ちゃんが大きく遠回りをして私に伝えたかったことはちゃんと伝わっていたけれど、 まだ銀ちゃんは私に笑うから、気付かないふりで私も笑う。夏が溶けていく。











     
( 好きだから、好きでいる。それ以外の選択肢はないの。 )